金子 光晴 ― 2006/03/01 00:00
シーツに落ちた陰毛をうたう詩人。性愛を重ねれば重ねるほど、
孤独が深まる気がしてくる。
金子光晴の妻は、夫以外の男性との情事を重ね、
それを夫に話す事に快感を感じていたという。
そして、光晴は妻の告白をきいて、卑しめられ、苦悩し、地獄のどん底に
いる状態になっても被虐的立場に興奮を覚え、いっそう妻を愛したらしい。
まるで小説のような話だ。
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愛情69 金子光晴
僕の指先がひろひあげたのは
地面のうへの
まがりくねった一本の川筋
外輸蒸気船が遡る
ミシシッピイのやうに
冒険の魅力にみちた
その川すぢを
僕の目が 辿る。
落毛よ。季節をよそに
人のしらぬひまに
ふるひ落とされた葉のやうに
そっと、君からはなれたもの、
皺寄ったシーツの大雪原に
ゆきくれながら、僕があつめる
もとにはかへすよすがのない
その一すぢを
その二すぢを、
ふきちらすにはしのびないのだ。
僕らが、どんなにいのちをかけて
愛しあったか、しってゐるのは
この髯文字のほかには、ゐない。
必死に抱きあったままのふたりが
うへになり、したになり、ころがって
はてしもしらず辷りこんでいった傾斜を、そのゆくはてを
落毛が、はなれて眺めてゐた。
やがてはほどかねばならぬ手や、足が
糸すぢほどのすきまもあらせじと、抱きしめてみても
なほはなればなれなこころゆゑに
一層はげしく抱かねばならなかった、この顛末を。
落雷で崩れた宮観のやうな
虚空に消えのこる、僕らのむなしい像。
僕も
君も
たがひに追い、もつれるようにして、ゐなくなったあとで、
落毛よ、君からぬけ落ちたばかりに
君の人生よりも、はるばるとあとまで生きながらへるであらう。それは
しをりにしてはさんで、僕が忘れたままの
黙示録のなかごろの頁のかげに。
孤独が深まる気がしてくる。
金子光晴の妻は、夫以外の男性との情事を重ね、
それを夫に話す事に快感を感じていたという。
そして、光晴は妻の告白をきいて、卑しめられ、苦悩し、地獄のどん底に
いる状態になっても被虐的立場に興奮を覚え、いっそう妻を愛したらしい。
まるで小説のような話だ。
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愛情69 金子光晴
僕の指先がひろひあげたのは
地面のうへの
まがりくねった一本の川筋
外輸蒸気船が遡る
ミシシッピイのやうに
冒険の魅力にみちた
その川すぢを
僕の目が 辿る。
落毛よ。季節をよそに
人のしらぬひまに
ふるひ落とされた葉のやうに
そっと、君からはなれたもの、
皺寄ったシーツの大雪原に
ゆきくれながら、僕があつめる
もとにはかへすよすがのない
その一すぢを
その二すぢを、
ふきちらすにはしのびないのだ。
僕らが、どんなにいのちをかけて
愛しあったか、しってゐるのは
この髯文字のほかには、ゐない。
必死に抱きあったままのふたりが
うへになり、したになり、ころがって
はてしもしらず辷りこんでいった傾斜を、そのゆくはてを
落毛が、はなれて眺めてゐた。
やがてはほどかねばならぬ手や、足が
糸すぢほどのすきまもあらせじと、抱きしめてみても
なほはなればなれなこころゆゑに
一層はげしく抱かねばならなかった、この顛末を。
落雷で崩れた宮観のやうな
虚空に消えのこる、僕らのむなしい像。
僕も
君も
たがひに追い、もつれるようにして、ゐなくなったあとで、
落毛よ、君からぬけ落ちたばかりに
君の人生よりも、はるばるとあとまで生きながらへるであらう。それは
しをりにしてはさんで、僕が忘れたままの
黙示録のなかごろの頁のかげに。
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