バラヤー内乱の誤訳 ― 2010/01/15 00:00
小木曽さんの翻訳は、その小さな部分だけ読めば意味が通っても、全体の文脈から考えると、オカシイ、と思うものがちょこちょこある。
とくに内面の吐露や感情のぶつかり、など、文学的な部分が怪しい。
父 ピョートル --次男アラール --アラールの息子マイルズ
という関係で、ピョートルは過去に優等生の長男を失っていて、自分の思い通りにならない次男アラールに内心失望や不満を抱いているという背景がある。
1) ピョートルは奇形の胎児マイルズを殺そうとして失敗し、アラールへの説得も失敗し、たとえ生まれてもマイルズを認めないと言った。
2) 反乱軍に人工子宮(マイルズが入っている)が奪われたが、アラールの妻が決死の思いで取返した。
3) マイルズは無事誕生したが、予想どおりの奇形であり、ピョートルはそれを嫌悪し、再びアラールを罵倒した。「おまえの兄が生きていれば・・」
ーーココカラ引用
「兄上が生きていたら、さぞかし完璧だったことでしょうね。・・略・・ あの血にまみれた晩餐会以来、ユーリ狂人皇帝の死の小隊の目を逃れて生き残ったこの息子で間に合わせるほかなかったわけでしょう。ぼくらはヴォルコシガンとして、なんとか間に合わせているんです」
彼の声がさらに低くなった。「だがぼくの長男は生きていきます。ぼくはしくじったりしない、ちゃんと育てあげますよ」
その氷のように冷ややかな言葉は、、略
アラールは思いなおす表情になった。「二度とふたたび、しくじったりしない」 ゆっくりと自分の言葉を訂正し、「父上、もはやチャンスは残されていないんです」
ーーココマデ引用
わたしはチャンスが残されていない、という点に引っかかった。
なぜなら体細胞2つと人工子宮があれば、子供を作る事が可能な科学力が存在する、とコーデリアは言っていた。内乱が鎮圧された後であり、外宇宙の科学力を利用しようと思えばできる。
それに氷のように冷ややかな言葉という点も気になった。
原文を調べてみたら、やはり、小木曽さんの訳はオカシイ。
"If my brother had lived, he would have been perfect. ..略.. So ever after you've had to make do with the leftovers from that bloody banquet, the son Mad Yuri's death squad overlooked. We Vorkosigans, we can make do." His voice fell still further. "But my firstborn will live. I will not fail him."
The icy statement was a near-lethal cut across the belly, 略
Aral's expression grew inward. "I will not fail him again," he corrected himself lowly. "A second chance you were never given, sir."
赤字の部分が過去形だという点と、again と second chance が呼応している点を小木曽さんは無視したようだが、ここは、
アラールは心の内に思いをめぐらせているようだった。「二度としくじるつもりはありません」 静かな声で言い直した。 「あなたには来なかった二度目のチャンスですよ、父上」
兄の代わりを要求されても兄のようにはなれなかった、いつも兄の影を感じていた、、この自分そのものを受け容れてくれない父ピョートルに対する自嘲とも決別とも取れる言葉。
「わたしはどんな息子でも心から受け入れ大事に育てる」というアラールの宣誓ではないか。
小木曽さんの訳だとアラールとピョートルの父子の葛藤がぬるい感じだ。
ユーリ狂人皇帝が行った血塗られた晩餐会の残り物 the leftoversという部分も小木曽さんはただ、掃討隊の目を逃れて生き残った、というように訳しているが、掃討隊の目を逃れた「晩餐会の残飯」「余りモノ」というニュアンスがあると思う。
翻訳だと心の奥深くでくすぶっていたアラールの痛みや怒りが見えないのが残念だ。
とくに内面の吐露や感情のぶつかり、など、文学的な部分が怪しい。
父 ピョートル --次男アラール --アラールの息子マイルズ
という関係で、ピョートルは過去に優等生の長男を失っていて、自分の思い通りにならない次男アラールに内心失望や不満を抱いているという背景がある。
1) ピョートルは奇形の胎児マイルズを殺そうとして失敗し、アラールへの説得も失敗し、たとえ生まれてもマイルズを認めないと言った。
2) 反乱軍に人工子宮(マイルズが入っている)が奪われたが、アラールの妻が決死の思いで取返した。
3) マイルズは無事誕生したが、予想どおりの奇形であり、ピョートルはそれを嫌悪し、再びアラールを罵倒した。「おまえの兄が生きていれば・・」
ーーココカラ引用
「兄上が生きていたら、さぞかし完璧だったことでしょうね。・・略・・ あの血にまみれた晩餐会以来、ユーリ狂人皇帝の死の小隊の目を逃れて生き残ったこの息子で間に合わせるほかなかったわけでしょう。ぼくらはヴォルコシガンとして、なんとか間に合わせているんです」
彼の声がさらに低くなった。「だがぼくの長男は生きていきます。ぼくはしくじったりしない、ちゃんと育てあげますよ」
その氷のように冷ややかな言葉は、、略
アラールは思いなおす表情になった。「二度とふたたび、しくじったりしない」 ゆっくりと自分の言葉を訂正し、「父上、もはやチャンスは残されていないんです」
ーーココマデ引用
わたしはチャンスが残されていない、という点に引っかかった。
なぜなら体細胞2つと人工子宮があれば、子供を作る事が可能な科学力が存在する、とコーデリアは言っていた。内乱が鎮圧された後であり、外宇宙の科学力を利用しようと思えばできる。
それに氷のように冷ややかな言葉という点も気になった。
原文を調べてみたら、やはり、小木曽さんの訳はオカシイ。
"If my brother had lived, he would have been perfect. ..略.. So ever after you've had to make do with the leftovers from that bloody banquet, the son Mad Yuri's death squad overlooked. We Vorkosigans, we can make do." His voice fell still further. "But my firstborn will live. I will not fail him."
The icy statement was a near-lethal cut across the belly, 略
Aral's expression grew inward. "I will not fail him again," he corrected himself lowly. "A second chance you were never given, sir."
赤字の部分が過去形だという点と、again と second chance が呼応している点を小木曽さんは無視したようだが、ここは、
アラールは心の内に思いをめぐらせているようだった。「二度としくじるつもりはありません」 静かな声で言い直した。 「あなたには来なかった二度目のチャンスですよ、父上」
兄の代わりを要求されても兄のようにはなれなかった、いつも兄の影を感じていた、、この自分そのものを受け容れてくれない父ピョートルに対する自嘲とも決別とも取れる言葉。
「わたしはどんな息子でも心から受け入れ大事に育てる」というアラールの宣誓ではないか。
小木曽さんの訳だとアラールとピョートルの父子の葛藤がぬるい感じだ。
ユーリ狂人皇帝が行った血塗られた晩餐会の残り物 the leftoversという部分も小木曽さんはただ、掃討隊の目を逃れて生き残った、というように訳しているが、掃討隊の目を逃れた「晩餐会の残飯」「余りモノ」というニュアンスがあると思う。
翻訳だと心の奥深くでくすぶっていたアラールの痛みや怒りが見えないのが残念だ。
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