島田 清次郎 1 ― 2006/02/10 00:00
「私に就いて」
私は何処に行くか
瓦斯が不足です
風船の尾に私の名を書いた短冊をむすび
私を昇天さしていただきませう。
私の生活は空の中に、
私の栄誉は炸裂すること
私は私の名と共に
この世に何も残したくない
私は何処に行くか
瓦斯が不足です
風船の尾に私の名を書いた短冊をむすび
私を昇天さしていただきませう。
私の生活は空の中に、
私の栄誉は炸裂すること
私は私の名と共に
この世に何も残したくない
島田 清次郎 2 ― 2006/02/11 00:00
「まちあぐみては」
陽がおちる
今日も亦誰れも来ない
希みを失つた夕靄が
重い足取りでしのびより
私の上におほひかぶさる
長い夜が復讐と脱走の計画に胸をおどらせ
夢が追われるみじめな自分をおびやかす
はかない想いで明日を待ち
待ちあぐみては僅かに眠る私である
陽がおちる
今日も亦誰れも来ない
希みを失つた夕靄が
重い足取りでしのびより
私の上におほひかぶさる
長い夜が復讐と脱走の計画に胸をおどらせ
夢が追われるみじめな自分をおびやかす
はかない想いで明日を待ち
待ちあぐみては僅かに眠る私である
島田 清次郎 3 ― 2006/02/12 00:00
「私は置き忘れて来た」
銀座の裏に赤い花を置き忘れて来た
緑のトランクはわたしの歓びを入れたまゝ
ステェションに置いてある。
誰れにも告げないで夜空に放つた赤い風船は
今何処に流れてゐるだろうか
(あれが一番私を知つてゐたのに)
精神病院の鉄格子の窓から
私は片方の黒い靴下を棄てた
乳を出した狂女が向ひの窓でそれを見ていたが、
乳をもいでわたしに投げつけた。
どこかに置き忘れてゐた哄ひがくつくつと
この時、舞ひ上つた鳩を追ひかけていつた。
銀座の裏に赤い花を置き忘れて来た
緑のトランクはわたしの歓びを入れたまゝ
ステェションに置いてある。
誰れにも告げないで夜空に放つた赤い風船は
今何処に流れてゐるだろうか
(あれが一番私を知つてゐたのに)
精神病院の鉄格子の窓から
私は片方の黒い靴下を棄てた
乳を出した狂女が向ひの窓でそれを見ていたが、
乳をもいでわたしに投げつけた。
どこかに置き忘れてゐた哄ひがくつくつと
この時、舞ひ上つた鳩を追ひかけていつた。
島田 清次郎 4 ― 2006/02/13 00:00
「朝」
1
朝は水のない一輪挿
挿されたヨナアンの首の蒼白さ
飛行機の飛べる風景と
脂の匂ひする音波――
おおーイ
隣室の患者が救ひを求めてゐる。
2
自分は新聞を読んでゐる。
自分は世界を見てゐる。
自分は活字を睨んでゐる。
自分は茫漠とした灰色をみつめてゐる。
1
朝は水のない一輪挿
挿されたヨナアンの首の蒼白さ
飛行機の飛べる風景と
脂の匂ひする音波――
おおーイ
隣室の患者が救ひを求めてゐる。
2
自分は新聞を読んでゐる。
自分は世界を見てゐる。
自分は活字を睨んでゐる。
自分は茫漠とした灰色をみつめてゐる。
島田 清次郎 5 ― 2006/02/14 00:00
「明るいペシミストの唄」
わたしには信仰がない。
わたしは昨日昇天した風船である。
誰れがわたしの行方を知つてゐよう
私は故郷を持たないのだ
私は太陽に接近する。
失はれた人生への熱意――
失はれた生への標的――
でも太陽に接近する私の赤い風船は
なんと明るいペシミストではないか。
わたしには信仰がない。
わたしは昨日昇天した風船である。
誰れがわたしの行方を知つてゐよう
私は故郷を持たないのだ
私は太陽に接近する。
失はれた人生への熱意――
失はれた生への標的――
でも太陽に接近する私の赤い風船は
なんと明るいペシミストではないか。
島田 清次郎 6 ― 2006/02/15 00:00
「自分への説法」
自分が天才であることを信じてもよい
もし自分が天才でありたいなら天才であることだけを信ぜよ。
それ以上を信ずるな
それ以外を信ずるな
天才とは容易に表はれるものではない
天才とは容易に理解されないものだ
天才のために奉仕せよ
天才のみを尊べ
天才のために犠牲をこばむな
天才になり切れ
もつと苦労せよ
忍耐せよ
汝の肉体をいたはるな
妄想妄念を去れ
高慢を去つて自信を得よ
唯一筋の道をゆけ
正直に歩め
投機者になるな
僥倖を求めるな
他人に頼るな
質実に生きよ
飛躍は汝の外にあるではないか
飛躍は汝のうちにある
他のために生活するな
自分のために生きよ
自分のすることを広告する必要はない
かくす必要もない
正しく内へ内へと深くなれ
謙虚であれ
一秒間も自分の心の看視をはなれるな
看視を忘れる程に看視せよ
常に自分の主人であれ
常に流れよ
よどんでゐてはいけない
迷つてゐてはいけない
迷や腐敗は汝自身を忘れ、外的の飛躍を思ふから起るのだ。
汝の歩みから眼をはなすな
一歩一歩きづきあげて行け
汝のものは遠い未来にあるのでない
汝の一歩一歩は汝の尊い生である生活である
常に切り拓け
常に汝自身を創つて行け
誇大妄想狂となるな
狂人は現実の真珠をふみにじつて
彼岸の黄金を求めるが故に何ものをも得られない。
やがて彼の破滅がくるのみだ
死がくるのみだ。
人生の死者であるなかれ
生き生きとのぞみに燃えよ
空想家であるな
真実なリアリストであれ
戦へ
手を握れ
歌へ
何でもせよ
地上に立つてせよ
土を忘れるな
清次郎よ、お前は狂人にならうとしてゐる
お前は死なうとしてゐる
お前は悩み疲れてゐる
それはお前が悪いのだ
お前が自信もないくせに高慢になつたからだ
お前はもうすつかりえらくなつたやうな気になつたからだ
ちつともえらくないのだ
えらくないのだぞ
汝はだめなのだぞ
よつく見よ、分ることだ
妄想してはいけない
正しく眼をひらけ
若々しくあれ
真に眼をさませ
凡人でもよいのだ
凡人でもよいのだ
外を見るな
内を見よ
内にのび、内にえて、外へあふれ出でよ
常に永遠を思へ
一時限りのつくろひに頭を悩ますな
人生を断片にするな
生活を断片にするな
生をぼろぼろにするな
流れよ
大河をみよ
海のうねりをみよ
勢よく流れよ
しつかりせよ
狂人になるな
りつぱになれ
しつかりしよ
清次郎よ
しつかりしてくれ!
自分が天才であることを信じてもよい
もし自分が天才でありたいなら天才であることだけを信ぜよ。
それ以上を信ずるな
それ以外を信ずるな
天才とは容易に表はれるものではない
天才とは容易に理解されないものだ
天才のために奉仕せよ
天才のみを尊べ
天才のために犠牲をこばむな
天才になり切れ
もつと苦労せよ
忍耐せよ
汝の肉体をいたはるな
妄想妄念を去れ
高慢を去つて自信を得よ
唯一筋の道をゆけ
正直に歩め
投機者になるな
僥倖を求めるな
他人に頼るな
質実に生きよ
飛躍は汝の外にあるではないか
飛躍は汝のうちにある
他のために生活するな
自分のために生きよ
自分のすることを広告する必要はない
かくす必要もない
正しく内へ内へと深くなれ
謙虚であれ
一秒間も自分の心の看視をはなれるな
看視を忘れる程に看視せよ
常に自分の主人であれ
常に流れよ
よどんでゐてはいけない
迷つてゐてはいけない
迷や腐敗は汝自身を忘れ、外的の飛躍を思ふから起るのだ。
汝の歩みから眼をはなすな
一歩一歩きづきあげて行け
汝のものは遠い未来にあるのでない
汝の一歩一歩は汝の尊い生である生活である
常に切り拓け
常に汝自身を創つて行け
誇大妄想狂となるな
狂人は現実の真珠をふみにじつて
彼岸の黄金を求めるが故に何ものをも得られない。
やがて彼の破滅がくるのみだ
死がくるのみだ。
人生の死者であるなかれ
生き生きとのぞみに燃えよ
空想家であるな
真実なリアリストであれ
戦へ
手を握れ
歌へ
何でもせよ
地上に立つてせよ
土を忘れるな
清次郎よ、お前は狂人にならうとしてゐる
お前は死なうとしてゐる
お前は悩み疲れてゐる
それはお前が悪いのだ
お前が自信もないくせに高慢になつたからだ
お前はもうすつかりえらくなつたやうな気になつたからだ
ちつともえらくないのだ
えらくないのだぞ
汝はだめなのだぞ
よつく見よ、分ることだ
妄想してはいけない
正しく眼をひらけ
若々しくあれ
真に眼をさませ
凡人でもよいのだ
凡人でもよいのだ
外を見るな
内を見よ
内にのび、内にえて、外へあふれ出でよ
常に永遠を思へ
一時限りのつくろひに頭を悩ますな
人生を断片にするな
生活を断片にするな
生をぼろぼろにするな
流れよ
大河をみよ
海のうねりをみよ
勢よく流れよ
しつかりせよ
狂人になるな
りつぱになれ
しつかりしよ
清次郎よ
しつかりしてくれ!
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